原材料費の高騰、人手不足、消費者の節約志向――2024年のベーカリー業界は厳しい逆風にさらされました。帝国データバンクや東京商工リサーチのデータをもとに、現状を直視し、生き残るための戦略を考えます。
2024年のパン屋倒産・廃業の概況
東京商工リサーチの調査によると、2024年に倒産した「パン・菓子製造小売業」は前年比で増加傾向にあり、特に従業員5名以下の零細規模での廃業が目立ちます。帝国データバンクの「全国企業倒産集計」でも、食料品製造小売分野の倒産件数は2023年から2024年にかけて約12%増加したとされています。
廃業の理由として最も多く挙げられるのは以下の3点です。
| 廃業理由 | 割合(概算) |
|---|---|
| 採算悪化(原価高騰) | 約45% |
| 後継者不在 | 約30% |
| 競合激化・売上低迷 | 約25% |
原価高騰が直撃した2年間
農林水産省の発表によると、2022年4月〜2024年10月の間に輸入小麦の政府売渡価格は累計で約28%上昇しました。さらにバター・生クリーム・卵・砂糖も軒並み値上がりし、材料費だけで月間10〜30万円のコスト増を強いられたパン屋が続出しました。
値上げに踏み切ったパン屋は生き残り率が高く、踏み切れなかったパン屋ほど廃業リスクが高まった傾向があります。消費者の「値上げ理解度」は2024年に入り徐々に上昇しており、適切な価格改定は経営防衛の基本手段です。
廃業した店舗に共通する3つのパターン
パターン① 価格転嫁の先送り
材料費が上がっても「お客様が離れる」と価格改定をためらい続けた結果、利益率がマイナスになったケースです。値上げのタイミングが遅れると、損失を取り戻す体力がなくなります。
パターン② 固定客依存・新規集客ゼロ
長年の常連客に支えられてきたが、固定客の高齢化・転居などで売上が自然減少し、Instagram等のSNS活用も行わず新規客獲得ができなかったケースです。
パターン③ 廃棄ロスの放置
売れ残りのパンを毎日大量廃棄しながらも、製造量の見直しをしなかったケースです。廃棄率が10%を超えると、実質的な原価率は40%以上に跳ね上がります。
生き残っている店舗の共通点
同じ厳しい環境下でも安定経営を続けているパン屋には、以下の共通点があります。
① 定期的な価格改定の実施
半年〜1年ごとに原価を再計算し、必要に応じて10〜20円単位の価格改定を行っています。告知方法を工夫(POP、SNS、理由の説明)することで、常連客の離脱を最小限に抑えています。
② 看板商品への集中と商品数の絞り込み
「食パン3種類とバターロールだけ」のような尖った品揃えで、製造効率を高めながら廃棄を減らしている店舗が増えています。商品数を絞ることで1品あたりの仕込み精度が上がり、品質の安定にもつながります。
③ サブスクリプション・予約販売の導入
週次のパン定期便(例:月額3,500円で毎週土曜日に5種のパン)を導入した店舗は、売上の予測可能性が高まり、廃棄ロスの削減にも直結しています。
④ SNSによる継続的な新規集客
InstagramやLINE公式アカウントを活用して、既存客のリピートと新規客の来店を並行して促進している店舗は、固定客減少の影響を受けにくい構造になっています。
2025年以降の展望
農林水産省の見通しでは、国際的な穀物価格は当面高止まりが続く見込みです。一方で、国内の小麦自給率向上に向けた産地開発も進んでおり、国産小麦を使ったブランドパンへの需要は高まる可能性があります。
廃業リスクを下げるためには「値上げできる付加価値」「廃棄を生まない販売設計」「SNSによる継続集客」の3つを同時に進めることが、2025年以降の生存戦略の核心です。
まとめ
2024年のパン屋廃業増加の背景には、原価高騰への対応の遅れと新規集客力の欠如があります。データが示す廃業パターンを反面教師にしながら、価格改定・商品絞り込み・サブスク導入・SNS活用という4つの打ち手を着実に実行することが、これからのベーカリー経営に求められます。
参考・出典
- 帝国データバンク「全国企業倒産集計 2024年報」
- 東京商工リサーチ「業種別倒産状況」(2024年)
- 農林水産省「輸入小麦の政府売渡価格の推移」(2024年10月)