パン屋の経営学
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開業3年で閉店した私が学んだ5つの失敗と、2度目の挑戦で黒字化した理由

「理想のパン屋」を追いかけすぎて経営を見失った。1度目の閉店経験を持つ経営者が、その後どう立て直したかをリアルに語ります。

15分で読める編集部著者:編集部
開業3年で閉店した私が学んだ5つの失敗と、2度目の挑戦で黒字化した理由

2018年に夢のパン屋を開き、2021年に閉店。そして2022年に再挑戦し、現在は黒字経営を続けている——この記事はそんなオーナーDさんの実体験です。「失敗から学んだ」という言葉は陳腐に聞こえますが、数字と向き合った経験が2度目の成功を支えています。同じ轍を踏まないために、包み隠さず公開します。

1度目の開業と閉店までの経緯

Dさんは製菓学校卒業後、都内のパン屋で5年間修業し2018年に独立。埼玉県の住宅街に15坪のテナントを借り、常時60種類以上のパンを並べる「品揃え豊富なパン屋」を目指しました。

開業時のスペック

項目内容
開業資金約1,050万円(うち融資700万円)
坪数15坪
商品数常時60〜70種類
スタッフオーナー+パート2名
開業時月商約48万円

開業から1年は順調でした。しかし2年目から売上が横ばいになり、3年目には月商が35〜40万円まで低下。融資の返済が重くなり、2021年3月に閉店を決断しました。

失敗① 商品数が多すぎた

最大の失敗は「品揃えの豊富さ」が強みになると信じていたことです。60〜70種類のパンを毎日製造するには、多品種少量の仕込みが必要で製造効率が極めて低くなります。

結果として起きたこと

  • 廃棄率が常に8〜12%で高止まり
  • 1品あたりの製造数が少なく、仕入れコストが割高に
  • 人気商品が昼前に売り切れ、不人気商品が夕方まで残る

2度目の開業では商品数を28種類に絞りました。廃棄率は1.8%まで低下し、製造効率が上がったことで人件費も削減できました。

失敗② 価格設定が感覚頼りだった

1度目の開業時、価格設定の根拠は「近所のパン屋より少し安め」という感覚だけでした。原価計算を一切していなかったため、後から計算すると複数の商品が原価割れしていたことが判明しました。

1度目と2度目の価格設定の違い

商品1度目の価格実際の原価率2度目の価格原価率
クロワッサン180円約42%240円約30%
あんぱん150円約38%180円約31%
食パン1斤320円約35%390円約28%

値上げを恐れていたDさんが2度目で気づいたのは「適正価格で買ってくれるお客様を集める方が経営は安定する」ということでした。

原価計算と価格設定の見直し

失敗③ 運転資金が3か月分しかなかった

1度目の開業時、手元に残した運転資金は約90万円(約3か月分)でした。開業直後は売上が安定せず、2か月目には資金繰りに不安を感じ始めました。

日本政策金融公庫「新規開業実態調査」(2023年度)によると、開業時の資金不足を感じたオーナーの割合は全体の約42%に上ります。特に開業後6か月は売上が不安定なため、最低6か月分の運転資金が必要です。

2度目の開業では融資交渉の段階から「運転資金6か月分(約180万円)を必ず確保する」ことを条件にし、開業資金計画を立て直しました。

失敗④ 新規集客を口コミだけに頼った

「良いパンを作れば口コミで広がる」と信じていた1度目。SNSは開業時にアカウントを作っただけで、ほぼ更新していませんでした。

実際には、住宅街の路面店は通りがかりの認知が限界で、SNSを活用しなければ商圏外への拡大は望めません。開業から2年経っても「この街にパン屋ができたことを知らない」という近隣住民が多数いたことが閉店後の調査でわかりました。

2度目の開業ではInstagramを週5回更新することを開業前から始め、オープン前日にはフォロワー数が800人に達していました。

失敗⑤ 孤独な経営・数字を誰とも共有しなかった

1度目の失敗で最も後悔していることは「経営の数字を誰にも相談しなかった」ことです。売上が落ちても「もう少し頑張れば回復する」と思い込み、税理士にも相談せず、損益分岐点の計算もしていませんでした。

閉店を決断したのは融資の返済が難しくなってからで、「もう3か月早く相談していれば対策が打てた」とDさんは話しています。

2度目の開業では月次で税理士と数字を確認する体制を作り、売上が3か月連続で計画比80%を下回ったら即座に対策を打つルールを自分に課しています。

2度目の開業で変えた5つのこと

再挑戦したパン屋の開業日

変更点1度目2度目
商品数60〜70種類28種類
価格設定感覚ベース原価率30%基準
運転資金3か月分6か月分
SNS運用ほぼゼロ週5回更新(開業前から)
数字の管理一人で抱える月次で税理士と確認

2度目の開業から18か月後、月商は安定して65〜72万円で推移しています。1度目の最盛期(月商48万円)を大きく超え、融資返済後の手残りも確保できています。

まとめ

失敗の本質は「品数が多かった」「価格が安すぎた」ではありません。数字を見ずに感覚で経営していたことが根本原因でした。原価率・廃棄率・運転資金・損益分岐点——この4つの数字を毎月把握するだけで、経営の危機を早期に察知できます。1度目の閉店は辛い経験でしたが、数字と正直に向き合う習慣を作れたことが2度目の成功につながりました。

※事例は取材をもとに構成。個人・店舗が特定されないよう一部変更しています。

参考・出典

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